【療育事業所運営のコツ】発達支援ゆずの実践例から学ぶ!お局様に振り回されない職場づくりと識学の理論活用法

はじめに

療育事業所の運営において、「お局様」問題は多くの管理者にとって悩みの種となります。特定の職員が強い影響力を持ち、独自のやり方を押し通すことで、組織の規律が乱れたり、新しい療育手法の導入が困難になったりすることがあります。

こうした状況が続くと、職場の士気が低下し、結果として子どもたちへの支援の質にも悪影響を及ぼす可能性があります。


この問題を解決するための手法として、識学の考え方が注目されています。識学は、組織の曖昧さを排除し、明確なルールと基準を設けることで、職場環境を健全化するマネジメント手法です。


本記事では、識学の基本概念を解説するとともに、療育事業所に適した活用方法を考察し、実際に識学の手法を取り入れた「発達支援ゆず」の事例を紹介します。

療育事業所における「お局様」問題の本質

療育の現場では、専門性の高さから経験豊富な職員が強い影響力を持つことが多くあります。こうした職員が、管理者の指示よりも「自分のやり方が正しい」と考え、新しいルールや療育手法の導入に抵抗するケースが少なくありません。

また、療育現場では職員同士の人間関係が業務に影響を与えやすく、「長年の勤務実績があるから」「あの人は仕方がない」という理由で、ルールを守らない職員が容認されることもあります。その結果、公平な評価制度が機能せず、職場の士気が低下してしまうのです。


このような状況を生み出す典型的な存在が、いわゆる「お局様」と呼ばれる職員です。お局様は、長年の経験や人間関係を背景に職場で影響力を持ち、管理者の意向よりも自分の価値観や過去のやり方を優先する傾向があります。結果として、新しいルールや療育手法の導入を妨げ、組織全体の成長を阻害してしまうのです。

これらの問題を解決し、療育の質を維持しながら組織の健全化を図るためには、識学の考え方を取り入れたマネジメント手法が有効です。識学を導入することで、ルールを明確にし、例外を作らないことで「お局様」の影響力を自然と抑え、公平な職場環境を確立することができます。

識学とは? わかりやすく解説

1.識学とは何か?

識学(しきがく)とは、「組織内の曖昧さを排除し、ルールを明確にすることで、健全な組織運営を実現するマネジメント理論」 です。組織の成長を妨げる「誤解」「錯覚」「曖昧なルール」などを排除し、個人の感情ではなく、論理的な意思決定を徹底すること を重視します。

特に日本の企業や福祉・教育の現場では、「慣習的なやり方」「個々の経験に基づく判断」「空気を読む文化」などが根強く残っていることが多く、これが組織の停滞やルールの形骸化を招く原因 になっています。

識学は、これらを排除し、「決められたルールを全員が守る環境」 を作ることで、組織の効率性と公平性を向上させることを目的としています。

2. 識学の基本原則

識学には、組織を健全に保つための3つの基本原則があります。

ルールを明確にし、例外を作らない

組織が円滑に機能するためには、全員が公平に従うべきルールが必要 です。
ルールが曖昧だったり、特定の職員にだけ特例を認めたりすると、不公平感が生まれ、職場の士気が下がります。識学では、「ルールを一貫して適用し、例外を作らない」ことが組織の安定につながると考えています。

具体例

  • 「ベテランだからルールを守らなくても良い」といった特別扱いをしない
  • 「あの人は仕方ない」とルール違反を見逃さない
  • すべての職員に平等にルールを適用し、徹底する

役職ごとの責任範囲を明確にする

組織内での役割分担が不明確だと、責任の押し付け合いや指示系統の混乱 が生じます。識学では、「役職ごとに責任の範囲を明確にし、それぞれが役割を果たすことで組織を円滑に運営する」 ことを推奨しています。

具体例

  • 上司は部下に適切な指示を出し、責任を持つ
  • 部下は上司の指示に従い、自分の役割を果たす
  • 現場の混乱を防ぐために、意思決定のルートを明確にする

情緒ではなく論理で判断する

日本の職場では、「和を乱さない」「人間関係を大切にする」ことが重視される傾向があります。しかし、感情を優先すると、組織としての合理的な判断ができなくなる ことがあります。

識学では、「好き嫌い」「感情的な意見」「過去の慣習」ではなく、組織の目的に沿った論理的な意思決定を優先するべきという考え方をとります。

具体例

  • 「新しいルールに反対する人がいるから変更しない」のではなく、必要ならば変更する
  • 「気に入らない上司の指示だから従わない」ではなく、指示が合理的であれば従う
  • 「感情的に反対されるからやめる」のではなく、組織の成長に必要なら実行する

3. 識学における「姿勢のルール」と「行動のルール」

識学では、組織のルールを「姿勢のルール」「行動のルール」 の2つに分けて考えます。

姿勢のルール(意図的に守れるルール)

「姿勢のルール」とは、すべての職員が意識的に守ることができるルール です。

具体例

  • 始業時間を守る
  • 上司の指示に従う
  • 報連相(報告・連絡・相談)を適切に行う

これらは、職員の能力や状況に関係なく、意図的に守ることができるもの です。そのため、識学では、「姿勢のルールを徹底できない職員は組織に残さない」という方針を取ります。

行動のルール(結果を求めるルール)

「行動のルール」とは、成果を求めるルール です。姿勢のルールとは異なり、努力しても達成できない場合があるものが含まれます。

具体例

  • 1ヶ月以内に新規利用者を〇名獲得する
  • 療育プログラムを〇件作成する

行動のルールは、個人の能力や環境によって達成できるかどうかが異なる ため、評価はそのプロセスも含めて慎重に行う必要があります。

療育事業所に識学を導入する意義

識学を療育事業所に導入することで、組織のルールが明確になり、公平な職場環境を作ることが可能になります。特に、以下のようなメリットがあります。

ルールを守れない職員が淘汰され、組織が健全化する

「ルールを守らない職員が居心地の悪さを感じて退職する」という現象が起こります。これは、一見ネガティブなことのように思えますが、ルールを守れる職員のみが残ることで、組織の安定と成長につながるという大きなメリットがあります。

指示命令系統が明確になり、管理者の指示が確実に現場へ伝わる

「誰が何を決定し、誰が責任を持つのか」が明確になるため、管理者の指示がスムーズに現場へ伝わるようになります。

職員の評価が明確になり、努力する人が正しく評価される環境が整う

「長年勤務しているから評価される」のではなく、「ルールを守り、業務を適切に遂行している人が評価される」環境が作られます。

療育現場に適した識学のカスタマイズ

識学の基本理念は「ルールを明確にし、例外を作らないこと」にありますが、療育の現場では、子ども一人ひとりの特性や保護者の要望に柔軟に対応する必要があります。

そのため、識学の考え方をそのまま適用するのではなく、療育の特性を考慮しながらカスタマイズすることが重要 です。ここでは、療育現場に適した形での識学の応用方法について考察します。

1. ルールの明確化と柔軟性の両立

識学では「例外を作らない」ことが原則ですが、療育現場では、子ども一人ひとりの発達段階や特性に合わせた対応が求められます。そのため、ルールを「厳格に適用する部分」と「状況に応じて調整可能な部分」に分けることが重要です。

厳格に適用する部分(例外を作らないルール)

  • 職員の勤務態度や報連相のルール(例:定時出勤、日報提出、チームでの情報共有)
  • 指示命令系統の明確化(例:上司の決定には従う、独自判断を避ける)
  • 療育の基本方針の統一(例:支援方法に関する共通マニュアルの遵守)

状況に応じて調整可能な部分

  • 子ども一人ひとりの対応方法(例:個別支援計画に基づき、柔軟にサポート)
  • 保護者対応(例:保護者の要望に応じた適切なフィードバックの提供)

このように、「組織の運営」に関するルールは厳格に適用し、「子どもへの支援」に関する部分には一定の柔軟性を持たせることで、識学の考え方と療育の特性を両立させることができます。

2. 「評価制度」におけるバランスの取り方

識学では「結果を重視する評価制度」が推奨されていますが、療育事業所においては、数値化しにくい要素が多いため、そのまま適用すると現場に混乱を招く可能性があります。

そのため、「定量的評価」と「定性的評価」を組み合わせる形が望ましいと考えられます。

定量的評価(数値化できる評価)

  • 報告・連絡・相談の徹底度合い(例:期日内の記録提出率)
  • 療育プログラムの実施率(例:決められたセッション回数を実施できているか)
  • 勤務態度(例:遅刻・欠勤の回数)

定性的評価(質的な評価)

  • 子どもへの適切な関わり方(例:支援内容の質、子どもや保護者の満足度)
  • チームワークの貢献度(例:他の職員との協力姿勢、後輩指導の積極性)

このように、数値化できる項目は識学の手法を活用しつつ、療育の質に関する評価は適切なフィードバックを通じて行うことで、バランスの取れた評価制度を構築することができます。

3. ルールを守らせるための「納得感」の確保

識学では「ルールを守ることが重要」とされ、個々の意見を募ってルールを作ることは推奨されていません。しかし、療育事業所においては、単にルールを押し付けるだけではなく、職員がその意義を理解し、納得して取り組めるようにすることが必要です。

納得感を高めるための工夫

  • ルールを策定する際に「なぜ必要なのか」を明確にする
    例:「報連相の徹底は、子どもに一貫した支援を提供するために不可欠である」と説明する。
  • 管理者が率先してルールを実践する
    例:管理者自身が報連相を徹底し、職員にも同じ姿勢を求める。
  • ルール違反が子どもに影響することを示す
    例:「独自のやり方を貫くと、子どもが混乱する」という実例を挙げて説明する。

このように、ルールを「守らせること」を目的とするのではなく、「ルールを守ることで子どもにとって良い療育環境が作れる」という意識を持たせることが、識学を療育現場に適用する際の鍵となります。

4. 職員の離職リスクへの対応

識学を導入すると、「ルールを守れない職員が居心地の悪さを感じて辞める」という現象が起こることがあります。これは組織の健全化にはプラスの側面もありますが、療育の現場では急な離職が子どもや保護者に影響を与える可能性があるため、対策が必要です。

離職リスクを最小限に抑える方法

  • 事前に職員へルール変更の目的を説明し、適応期間を設ける
  • ルールに適応できるように、サポートを提供する(研修・個別指導など)
  • 離職を避けたい職員には、具体的な行動指針を提示し、適応の機会を与える

ルールに適応できない職員が退職するのは自然な流れですが、療育の現場では「急な職員不足による支援の質の低下」を防ぐための準備が必要です。

発達支援ゆずにおける識学の手法を活用した事例

発達支援ゆずでは、療育事業所の運営をより健全で効率的なものにするため、識学の手法を活用しました。

しかし、識学の理論をそのまま適用するのではなく、療育の特性に合わせたカスタマイズを行い、徐々に現場へ浸透させる工夫をしました。

以下に弊所が導入前に抱えていた課題、実施した手法、そして導入後の成果について詳しく解説します。

導入前の課題

識学の手法を取り入れる前の発達支援ゆずでは、一部の事業所で組織の統制が十分に機能しておらず、いくつかの問題を抱えていました。

特に、経験豊富な職員が暗黙のうちに影響力を持ちすぎることで、組織全体の意思決定が曖昧になり、新しい方針が浸透しにくい状況がありました。

(1) ベテラン職員の影響力が強く、管理者の指示が徹底されない

長年勤務している職員の中には、自分の経験に基づいた独自のやり方を優先する傾向がありました。経営者や管理者が新しい方針を打ち出しても、「昔からのやり方が正しい」「今までこれでうまくやってきた」という理由で、指示が軽視されることがありました。

この状況が続くと、管理者の権限が形骸化し、実質的にお局様が職場を仕切る構造となります。その結果、ルールが形骸化し、職員の不満やストレスが蓄積することにつながっていました。

(2) 若手職員が意見を出しにくく、新しい療育手法の導入が困難

新しい手法を取り入れようとしても、既存の文化が強く、お局様の意向に反する意見は通りにくいという空気がありました。

新しく入職した職員を丁寧にサポートするのではなく、「できないことの指摘」が多くなり、職員間に「逆らうと怖い」「自分の意見を言っても意味がない」という諦めの空気が生まれていました。

その結果、組織の成長が停滞し、療育の質向上を妨げることになっていました。また入職したものの、仕事のミスを厳しく追求されることで、早期退職につながる事例が散見されました。

(3) ルールを守らない職員がお局様一派に属することで容認される

業務の効率化や組織の統一を目指しても、職員の中には「お局様に可愛がられているから大丈夫」という考えを持ち、ルールを無視する人が出てくるという問題がありました。

ルールを無視するだけでなく、会社批判の横行、ありもしない風評を流すなど目に余る行為が横行しました。

こうした状況が長く続くと、新しく入った職員も「この職場ではルールは形だけのもの」という認識を持ち、本来守られるべき組織のルールが形骸化してしまうのです。


これらの課題を解決し、より健全な組織運営を実現するために、発達支援ゆずでは識学の手法を導入しました。

実施した識学の手法

識学の手法を療育事業所向けにカスタマイズしながら適用するため、発達支援ゆずでは以下のような段階的な施策を実施しました。

(1) 管理職(児発管)から実践を開始し、職員全体へ段階的に適用

まず、識学の導入を一気に全職員へ適用するのではなく、児童発達支援管理責任者(児発管)などの管理職が先行して実践し、現場へ広げる形を取りました。

管理職が率先して「姿勢のルール」を実践することで、現場の職員に対して「組織の方針が変わる」というメッセージを明確に示しました。これにより、トップダウンでの方針変更をスムーズに進めやすくなりました。

(2) 姿勢のルールを文書化し、事前に回覧と説明を実施

ルールを単に決めるだけでなく、職員全員がルールを理解し、納得した上で運用できるように、文書化を行いました

また、事前に職員へ回覧し、管理職からの説明の機会を設けました。この取り組みにより、ルールの背景や目的を明確に伝えることができ、導入時の反発や混乱を最小限に抑えることができました。

(3) 一定数の離職を想定し、事前に準備を進める

識学の考え方の導入により、「ルールを守れない職員が居心地の悪さを感じて辞める」ことは避けられないと考えました。そのため、一定の離職を前提に計画を立て、業務の引き継ぎや人員補充の準備を進めました

組織の健全化に向けた取り組みとして、離職をネガティブなものと捉えるのではなく、「ルールを守れる職員のみが残る環境を作る」という前向きな視点で進めました。

導入後の成果

識学の手法を導入した結果、組織の健全化が進み、以下のような成果を得ることができました。

(1) ルールを守れない職員が「居心地が悪くなり」、自発的に退職

姿勢のルールを厳格に適用したことで、ルールを無視してきた職員は次第に居づらさを感じるようになり、自ら退職を選択するケースが増えました(いわゆるお局様御一行が次々と退職しました)。

そのことにより、指示命令系においてはスタッフ間でフラットな関係性が構築され、管理者の指示がスムーズに通るようになったことが大きな成果でした。

(2) ルールを守る職員が評価される環境が整い、職場の士気が向上

これまで不公平に感じられていた評価制度が、公平性を持って運用されるようになったことで、誠実に業務をこなす職員が適切に評価される環境が整いました。その結果、職員のモチベーションが向上し、チームワークが強化されました。

(3) 経営方針がスムーズに浸透し、組織の統一感が強化

ルール遵守を第一に掲げることで、指示命令系統が明確になり、職員全員が統一された方針のもとで業務を行うようになりました。


このように、発達支援ゆずでは識学の考え方を参考に姿勢のルールを療育事業所用にカスタマイズすることで、お局様問題を解決し、事業所の質を向上させることに成功しました。

お局様問題と識学の関係のまとめ

識学は、「組織の曖昧さを排除し、ルールを明確にすることで健全な職場環境を作る」ためのマネジメント理論です。

特に、日本の職場にありがちな「空気を読む」「経験者の意見が優先される」といった慣習にとらわれるのではなく、感情ではなく論理に基づいて判断し、組織として一貫したルールを維持することが特徴です。

これにより、個々の職員の主観や経験則ではなく、組織全体の最適な運営を考えた意思決定が可能となります。


療育事業所においても、この識学の考え方を導入することで、長年の経験を背景に過度な影響力を持つ「お局様」問題を自然に解消することができます。

お局様は、組織のルールではなく、自分の経験や価値観を基準に職場を動かそうとする傾向があり、結果として新しい取り組みの妨げになることが多いです。

しかし、識学の手法を適用することで、組織全体のルールが明確になり、個人の影響力ではなく、管理者の指示が優先される環境を作ることが可能になります。


また、姿勢のルールの導入によって評価制度が明確になり、「長く勤めているから評価される」のではなく、「組織のルールを遵守し、適切な業務遂行ができる職員が評価される」環境を作ることができます。これにより、努力する職員のモチベーションが向上し、職場の士気が高まることで、療育の質そのものが向上することが期待できます。


さらに、識学の手法を適切にカスタマイズし、療育事業所に導入することで、お局様の影響力に左右されず、組織のルールと管理者の意思決定が優先される環境を作ることが可能になります。

その結果、管理者が本来の役割を果たしやすくなり、職員間の不公平感が減少し、全員が同じ方向を向いて働ける職場へと変化していきます。


これは、最終的に子どもたちへの支援の質を向上させることにもつながるため、療育現場において識学の考え方を取り入れることは、極めて有意義な取り組みといえるでしょう。

弊所では、療育事業所オーナー様向けのサポート(単発相談)をおこなっています。スタッフ様教育や仕組み化、お局様問題などの現状をお伺いし、
それぞれの事業所に合った「ルール設計」や「組織改善」のアドバイスを提供しています。

「ルールを作っても現場で徹底できない…」「特定の職員の影響力が強すぎて指示が通らない…」といったお悩みに対して、
実際に成果を上げてきた事例をもとに、無理のない形での改善方法をご提案いたします。

まずはお気軽にご相談ください。
一緒に、スタッフ全員が安心して働ける健全な職場を目指していきましょう。

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