
療育事業所のホームページでよく見かける「お子様の笑顔のために」というフレーズ。響きは優しく、保護者にも伝わりやすそうですが、実はこの言葉、療育の本質をぼやかしてしまう危険なワードです。
なんとなく良い印象を与えるようでいて、実際には事業所の専門性を損なったり、支援の方向性を誤解させたりする可能性があります。
今回は、なぜ「お子様の笑顔のために」という表現が逆効果なのか、具体的に解説していきます。
「笑顔=発達支援の成功」ではない
療育の目的は、「子どもが笑顔になること」ではなく、「子どもができることを増やし、よりよい生活を送れるようにすること」です。
確かに、楽しい活動の中で学びが生まれることもありますが、「笑っている=成長している」とは限りません。
例えば、ある子どもがセラピー中にずっと笑顔で楽しそうにしていたとしても、それが本当にその子の発達につながっているのかは別問題です。必要な課題に取り組めていないのに、「笑っているからOK」となってしまえば、本来の支援の意義を見失ってしまいます。
抽象的すぎて、伝えたいことが伝わらない
「お子様の笑顔のために」は感覚的には心地よい言葉ですが、具体的に何をするのかが分かりません。
例えば、保護者が事業所を選ぶ際、ホームページを見て「ここはどんな支援をしてくれるのだろう?」と考えます。そのとき、「お子様の笑顔のために」では、結局どんな療育を提供しているのかが伝わらず、他の事業所との差別化ができません。
それよりも、「感覚統合の視点から日常の困りごとを評価します」といった具体的な表現のほうが、事業所の強みが明確になります。
エビデンスが必要な療育に、精神論は通用しない
療育は医療や教育と同じく、科学的根拠(エビデンス)に基づいて行われるべきものです。
にもかかわらず、「お子様の笑顔のために」という言葉は、なんとなく感情に訴えるだけで、支援の質については何も語っていません。
例えば、病院のホームページに「患者様の笑顔のために」としか書かれていなかったら、どう感じるでしょうか?
「笑顔になれるかどうかより、治療の方針や実績を知りたい!」と思いませんか?
療育事業所も同じです。エビデンスに基づいたアプローチを伝えることで、より信頼性の高い事業所として認識されます。
また、「そもそも療育においてエビデンスなど考えたこともない」という場合もあるかもしれませんが、それはすでに療育ではありません。
特に未就学のお子さんに対する療育は、効果を引き出すからこそ、その対価である「利用料」を国や自治体からいただけるのです。
そもそも何をしているかよく分からない療育であれば、国や自治体からの補助金をいただくことは、国や自治体に対してだけでなく、その原資の源となっている納税者に対しても失礼な話です。
「笑顔=成功」だと、発達を促せなくても許される雰囲気に
支援の現場では、子どもにとって負荷のかかる課題にも取り組んでもらうことがあります。新しいスキルを身につけるには、うまくできなくて悔しがったり、時には泣いたりすることもあります。
でも、「お子様の笑顔のために」という表現が前面に出てしまうと、そうしたプロセスが軽視されがちになります。「笑っていない=この支援はダメ」と思われてしまうと、長期的な成長を支える支援が行いにくくなるのです。
子どもにとって「できることが増えること」は、長い目で見れば自信につながり、本当の意味での笑顔につながります。だからこそ、目の前の「笑顔」ではなく、その子の未来を見据えた支援が大切なのです。
代わりにどんな表現が適切か?
「お子様の笑顔のために」が問題なら、どんな言葉を使えばよいのでしょうか?
例えば、次のような表現はどうでしょうか。
- 「発達のつまずきを見つけ、根拠を持ったアプローチを一人ひとりに合わせて構築しています」
- 「社会の中でお子さんの味方を増やすことを大切にしています」
- 「科学的根拠に基づいたアプローチで、未来の可能性を広げるプログラムを実施します」
このように、「何を目的に」「どのような方法で」支援するのかを明確にすると、保護者にも支援者にも伝わりやすくなります。
まとめ
療育事業所のホームページで「お子様の笑顔のために」という言葉を使うのは、一見すると良さそうに思えますが、実は支援の本質をぼやけさせるリスクがあります。笑顔だけをゴールにすると、
- 本当に必要な支援が行われない
- 事業所の強みや専門性が伝わらない
- エビデンスに基づいた支援の信頼性が損なわれる
といった問題が発生します。
療育は、子どもが「できることを増やし、生活の幅を広げる」ためにあります。だからこそ、「笑顔」ではなく「成長」や「自立」を意識した表現を使うことが大切なのです。
ホームページに載せる言葉一つで、事業所の印象は大きく変わります。療育事業所のオーナーとして、伝えるべきメッセージを見直してみてはいかがでしょうか。
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