ブラック療育の実態と問題点─なぜ日本の療育は質がばらつくのか

はじめに

「ブラック企業」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、療育の現場にも「ブラック療育」と呼ぶべき問題が存在します。

この「ブラック療育」という言葉は、私(西村猛)が提唱したもので、あまり表に出にくい療育の実態を明らかにすることで、療育業界全体の課題を浮き彫りにし、より良い支援を実現することを目的としています。

この記事では、ブラック療育の問題点だけでなく、なぜこのような支援が生まれ、なぜ淘汰されずに続いてしまうのかを、ビジネスや制度の観点から掘り下げて考察します。

ブラック療育が生まれる背景

ブラック療育は、単に「悪質な支援者がいるから」だけで生まれるものではありません。その背景には、療育ビジネスの構造的な問題や、療育における制度的な課題が関係しています。

1. 療育事業の急拡大と質のばらつき

日本では、発達障害の認知が広がり、児童発達支援や放課後等デイサービスの需要が急増しています。その結果、多くの新規事業者が参入しましたが、すべての事業者が適切な療育の専門知識を持っているわけではありません。

営利目的の事業者の増加

療育は「福祉サービス」ですが、補助金制度があるため、新規参入がしやすくなっています。

そのため、「利益を優先する」事業者が増え、短期間で収益化できるモデルが重視されがちです。

経験不足の支援者が現場を担う

急増するニーズに対し、経験豊富な療育専門家が足りていません。

資格要件の緩和により、療育の知識が不十分なスタッフでも支援に携わることができるようになっています。

2. 数値で評価されにくい「療育」の特性

療育の効果は、学校のテストのように明確な「数値」で測ることが難しい分野です。

  • 「この療育で○○が改善しました」と即座に証明しにくい
  • 短期間で目に見える成果が出ないため、不適切な支援が続いてしまう
  • 「特別なメソッド」を掲げれば、保護者に効果を錯覚させることができる

この結果、科学的根拠のない支援や、子どもに過度な負荷をかける指導が「効果がある」と誤認されやすくなります。

3. 保護者の不安を煽るマーケティング

保護者は「子どもの発達に遅れがある」と指摘されると、不安になります。その心理を利用し、次のような方法で強引に誘導する事業者も存在します。

「今すぐ対策しないと手遅れになる」

早期介入の重要性を強調しすぎて、保護者に過度な焦りを生じさせます。

「うちの施設なら劇的に改善する」

実際には根拠のない手法でも、「独自のメソッド」「成功事例」などをアピールして信頼を得ようとします。

保護者は「少しでも良くなるなら」と信じてしまうことが多く、結果的にブラック療育を助長する形になっています。

4. 支援者側の意識の問題

ブラック療育のすべてが「意図的に悪質」というわけではなく、支援者側の「善意」が裏目に出てしまうこともあります。

「療育は厳しくすべき」 という考え方

支援者が「子どもが成長するには厳しい指導が必要だ」と思い込んでいる事例は多く見られます。

しかし、子どもが本来持っている学ぶ力を無視し、強制的に行動を変えさせようとすると、逆効果になることがほとんどです。

「効果があると信じている」

実際には科学的根拠がない手法でも、支援者自身が「これが正しい」と思い込んでしまうことがあります。

ブラック療育をなくすために

ブラック療育を根絶するためには、事業者・支援者・保護者それぞれが正しい情報を持ち、意識を変えていくことが必要です。

1. 事業者の役割

  • 療育を単なるビジネスモデルとして捉えるのではなく、子どもの未来を考えた運営をする
  • スタッフの研修を徹底し、適切な知識とスキルを身につける
  • 効果のないプログラムを排除し、エビデンスに基づいた支援を提供する

2. 支援者の役割

  • 療育の本質を理解し、子ども一人ひとりに合った支援を行う
  • 「療育=厳しいトレーニング」ではなく、子ども自身の学ぶ力を引き出す方法を考える
  • 保護者に正しい情報を提供し、不安を煽るような言葉を使わない

3. 保護者の役割

  • 「〇〇療法で劇的に変わる」といった情報に冷静に向き合う
  • 療育の選択肢を広げ、複数の施設を比較する
  • 子どもの様子をしっかり観察し、無理をさせていないかを確認する

まとめ

ブラック療育が生まれ、続いてしまう背景には、療育業界の急拡大、数値化しにくい特性、保護者の不安につけ込むビジネスモデル、支援者の意識の問題などが複雑に絡み合っています。

しかし、この問題を明らかにし、改善に向けて取り組むことができれば、日本の療育の質は確実に向上していきます。

私が「ブラック療育」という言葉を提唱したのは、決して批判だけが目的ではありません。本当に子どものためになる療育とは何かを考え、より良い支援の形を模索していくための一歩なのです。

療育の未来を変えるために、支援者・事業者・保護者が共に学び、成長していくことが必要です。


西村猛が代表を務める株式会社ILLUMINATEでは、療育事業所さん向けコンサルティング事業を行っています。

質の高い療育を提供していきたいと考えておられる事業所様を、現場目線でサポートします。

詳細は株式会社ILLUMIANTEのサービス詳細ページをご覧ください。